2023.05.13 (Sat)
脱差別!?令和は傷つけない笑いが主流?価値観の変化と時代の流れ
令和に入ってから、人を傷つけない笑いが主流になりつつあります。
しかし笑いは、個体差やズレ、違和感などから生まれることが多いのも事実。
男性にしては、極端に小柄なキャラを活かし続けている吉本新喜劇の池乃めだかさん。
長身男性と並んだ場合、その差が際立ちます。
新喜劇のレジェンド池乃めだか師匠と東京から新喜劇にやってきた千葉公平さん。身長差約40cm!!!
この写真を撮る時に「千葉さん!千葉さん!」と呼び掛けましたが、全然反応してくれませんでした。どうやらまだ千葉公平になった実感はない模様です😂笑#おはようグランド花月 #吉本全劇場生配信 pic.twitter.com/yhTqpNxlxO— 吉本新喜劇 (@shinkigeki1) March 16, 2020
もし彼が172cmと日本人男性の平均身長だったら、確実に今と立ち位置が変わっています。
これまで笑いの創作者の多くが「笑いと差別は切り離せない関係にある」と口にし続けてきました。
まぁ何かを題材にする以上、人を傷つけない笑いとかほんま不可能に近いよなといつも思います
— ぽけるす(ぽけぽけ動画) (@Pokerusu_TV) February 25, 2021
とはいえ、時代の価値観が変化したことを意識せず、昔のスタンスで発信し続けていると、炎上騒動になることも多いでしょう。
保毛尾田保毛男(ホモオダホモオ)を、このご時世に再現するなんて、フジテレビはどういう神経しているのだろうか。
ゲイを笑いものにして、それが本当に面白いのか。
:『とんねるずのみなさん』30周年SPにタモリ・ビートたけし登場 https://t.co/DhI1GtfiRp
— 駒崎弘樹 ( Hiroki Komazaki )@看護師募集中 (@Hiroki_Komazaki) September 28, 2017
笑いの価値観が変わる速度は日進月歩。
今あなたがこの記事を読んでいる瞬間も、変わり続けているのです。
今回は、人を傷つけない笑いを考察しながら、「求められる笑いの価値観が、時代ごとにどのように変化してきたのか?」を、考察していきましょう。
1990年代はトガった笑いの需要が強かった
今は規制が厳しくなり、お笑い番組の内容が昔と比べてかなり変化しています。
現代の感覚でかつてのテレビ番組を見た場合、「えっ…こんなのがお茶の間で流されてたの!?」と、眉をひそめるかもしれません。
1990年代の笑いをけん引し続けたお笑い芸人といえば、間違いなくダウンタウンの松本人志さんでしょう。
彼が90年代に、後世へ大きな影響を与える実験的な活動を続けてきました。
ざっとですが、松本人志さんがまだ30代だった90年代の動きを振り返ってみましょう。
30代の松本人志による飽くなき挑戦と実験
今でこそ、娘さんを大事にする筋肉マッチョとして、優しいイメージのある松本さん。
30代のときの彼はトガりにトガっていました。
1994年に発売された『遺書』は250万部を超えるベストセラーに。
本の中で、ナインティナインを実名批判するなど、最先端の笑いを作り続けていた松本さんはかなりピリピリしていました。
Wikipediaより、松本さんが1990年代にVHSで出していた作品を引用してみましょう。
ダウンタウン松本人志の流 頭頭(とうず)(1993年7月9日)※オリジナルビデオ作品。松本が企画・構成・主演を担当
寸止め海峡(仮題)(1995年1月20日)※同名の松本人志1万円ライブを収録したビデオ。一番客の反応が良かった『写真で一言』のコーナーは、「入場料を払って観た客だけの特典」として意図的にカットされている[独自研究?]。
松本人志のひとりごっつ 其ノ一〜其ノ九(1997年)
HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol.りんご「約束」(1998年)
HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol.バナナ「親切」(1998年)
HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol.ぶどう「安心」(1999年)転載元:Wikipedia 松本人志
上記はテレビで放送されたものではなかったため、マニアック(特に『頭頭(とうず)』は、静かな描写が多く一際マニアック)。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』というテレビ放送でも、今の価値観でいえば、かなり過激なものが少なくなったのも確か。
90年代は、毒のあるブラックな笑いが、令和の時代と比べればかなり多めでした。
求められる笑いは心理的余裕に関係する?
日本中を有頂天にさせた、バブル景気は1991年の冬に終焉を迎えます。
そのあとは、経済の成長が止まり、「90年代は経済的に豊かな時代ではない」といった印象を持つ人が多いかも?
とはいえ、今振り返ると、90年代の日本人は、ある程度のゆとりを持っていたのではないでしょうか。
90年代のギャグ漫画は空前の不条理ブームに
1990年代に、ギャグ漫画業界で不条理ブームが起こります。
吉田戦車さん、榎本俊二さんなど、シュール系のギャグを得意とする人達がスターダムに踊り出ます。
吉田戦車さんの不条理4コマ『伝染るんです』。こちらの作品の人気キャラかわうそ君は特に有名で、一般のCMにも起用されるほどでした。
吉田戦車「伝染るんです。」のかわうそ君が東京新聞の広告キャラに就任(動画あり)https://t.co/AcV3i6NAeR pic.twitter.com/GFRhaDs59n
— コミックナタリー (@comic_natalie) February 21, 2020
4コマではありませんが、毒性の強い古谷実さんのギャグ漫画『行け!稲中卓球部』がヤングマガジンに連載されていたのも90年代。
『行け!稲中卓球部』
@講談社/古谷実×
『MUZE』 pic.twitter.com/g8ZILJiZQd
— SIVA MUZE HFRACTAL (@SIVA0516) September 14, 2020
松本人志さんと古谷実さん、天賦の才を持つふたりの天才が大好きな人もきっと多かったはず。
『クローズアップ現代』で時代の価値観の変化を語る吉田戦車
さて不条理ブームで売れっ子になった吉田戦車さんが、以前NHKの『クローズアップ現代』にて、脚本家の中園ミホさんと出演したことがありました。
番組の中で、平成を振り返る吉田戦車さん。
【夜10時】
「『伝染るんです。』は続けられない時代になった」
(漫画家・吉田戦車さん)ちょうど30年前の今日1月8日に「平成」が始まりました。
あれから私たちはどんな道を歩んできたのでしょうか。
吉田さんの言葉からは時代の変化が見えてきます。#クロ現プラスhttps://t.co/iDjz7DbS4E— NHK「クローズアップ現代+」公式 (@nhk_kurogen) January 8, 2019
番組の中で吉田戦車さんは、
不条理ギャグが世間にウケた背景には「本来、あってもなくてもいいものを面白がれる余裕が社会にあったから」と自ら分析。そして「その余裕は30年掛けて、失われていった」と回想しています。
— 小さくて赤い (@ruinshatoba) January 12, 2019
上記のように、「一見不要に映るもの、奇妙なものなどを楽しめる精神的な余裕という貯金が、30年かけて失われた」という旨の発言を行いました。
トレンドや世間の流れをいち早く察知しなければ生き残れない、漫画家という職業ゆえ、肌で感じたことなのでしょう。
トガリや不条理を受容できる、ゆとりというのは経済的余裕とも関わるでしょうが、それ以上に心理的な余裕も含んでいそうですね。
withコロナ時代の笑いはどうなる!?
2020年、2021年は新型コロナウイルスに世界中が翻弄される時代となりました。
長く生きてきた人達も、ここまでの切迫した事態は経験したことがなかったのではないでしょうか?
withコロナ時代は、余裕をなくす人が少なくないのかもしれません。
こういったときには、トガりよりも癒しや優しさが求められるもの。
しばらく、人を傷つける可能性が高い笑いは敬遠される傾向にありそうです。
ミルクボーイは「傷つけない笑い」の提供者…それって噓!?
2017年のM-1グランプリの決勝に出場したジャルジャル。
数多ある候補から、おふたりが選んだネタは『ヘンな校内放送』(通称ピンポンパンゲーム)。
このときに「人を傷つけない笑い」という具体的な言葉が、ジャルジャルという演者側から出たことも、今の優しい笑いが加速する流れにつながっているのでしょう。
ジャルジャルが今回のM1のネタの説明をしている番組の中で「人を傷つけない笑い」と言っていたのがすごく印象的だった。誰かの特徴や容姿をネタにして笑ったり、社会を風刺的な笑いも、たしかにお笑いの面白さの一面だろうけど、時々笑ってるお客さんがひどく怖く見える時がある。
— カクさん@帰沖 (@kakunarahara) December 14, 2017
人を傷つけない笑いの代表格といえば、ぺこぱ、サンドウィッチマン、ミルクボーイの三組。
2021年1月17日に東京のNSCにて特別講義を行ったミルクボーイは下記のように発言。
駒場「俺らって猛毒よ(笑)」「自分も“優しい笑い”だけがいいわけではないと思ってる。でも毒のある笑いは、面白くなかったらただただ人を傷付けるだけだということは肝に銘じてほしい」/ミルクボーイがNSCで特別授業、“優しい笑い”だけがいいわけではない https://t.co/xa6yb3We7B
— てれびのスキマ/戸部田 誠 (@u5u) January 17, 2020
自分たちの漫才の中に、しっかりと毒があることを認めたのです。
確かに「コーンフレークは寝ぼけているゆえ食べられる」というのは、かなりのコーンフレークディスリ(笑)。
優しい笑いを提供するお笑い芸人のパッケージに入れられているミルクボーイ。しかし彼らの漫才は、誰かや何かを傷つける要素を含んでいると自認していることがわかりました。
昭和のお笑いの中心に長い間、君臨していたザ・ドリフターズのリーダーのいかりや長介さんや、数々の爆笑エッセイを世に送り出した中島らもさん達が看破したとおり「笑いの本質は毒であり、差別的なものである」というのは、もはや疑いようがないでしょう。
浜田の黒塗りでいろいろ言われてるけど、昔、中島らもが「笑い」は「差別」って言い切ってるのを読んで衝撃を受けたことがあったことを思い出した。
— みきぷりーん* (@qieziqiezi) January 6, 2018
今は、毒や差別をいかに丸くトガりのない形でパッケージに収めて、わかりやすい形で大衆に届けるかが鍵を握るといっても過言ではありません。
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